児童文学の名作といわれる作品の多くが、著書自身の家族や近しい友人に宛てて語られたプライベートな物語が土台となったものが多いことを、ご存知な方も少なくないと思います。ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』や、ケネス・グレアムが幼い息子に話して聞かせた『たのしい川べ』、またテグジュペリが友人レオン・ウェルトに捧げた『星の王子さま』など例を挙げればきりがないほどですが、私はこれらの物語を手に取る時、一冊の書物であると同時に“家族(又は近しい友人など)に宛てられたラヴレター”を垣間見たような気持ちになります。
そんな本の中で、私がとりわけ気に入ってるのがトールキンの『サンタクロースからの手紙』という一冊の絵本です。この本は文字通りトールキン教授がサンタクロースになりかわって、1920年12月息子のジョンが三歳になってから家族宛てに送られたサンタクロースからの手紙で、ナチス・ドイツ空軍がイギリスの首都ロンドンを空襲し、バトル・オブ・ブリテンが始まる1940年頃まで、毎年欠かさずクリスマスに送り続けられました。初めは単純だった手紙も、サンタの家に同居している北極熊やエルフの秘書イルベレス、更にサンタの家の近くに住むやっかいなゴブリン小人達などといった登場人物が増えるにしたがって物語性を深めていきます。時には、北極熊が北極語(!)なる言語でゴブリンが洞窟に描いた象形文字をもとにしてアルファベットをつくり、それで書かれた短い手紙が添えられることもありました。
サンタクロースからの最後の手紙は、このようなメッセージで締めくくられています。
『 あんた方が今年も忘れずに手紙を書いてくれて、ほんとにうれしい。わしと手紙のやりとりをしている子どもたちの数は、どうもだんだんすくなくなるようだ。これもおそろしい戦争のせいだろう。戦争さえ終われば、また世の中がよくなるだろうし、わしも以前どおりいそがしくなるだろうと思う。だが今は、おそろしくたくさんの人が家をうしなったり、あるいはわが家を遠くはなれたりしてくらしている。本来いるべき場所にいられない人が世の中の半分ぐらいあるように思われる!<中略>あんた方も今年が最後で、来年からはもうくつしたをつることもなかろうと思う。どうやらこれで「さようなら」をいわなければならないだろうね。わしはあんた方を忘れやしないよ。わしはいつも古いともだちの名前を忘れず、かれらの手紙をとっておくのだ。そしてのちになって、かれらが大きくなり、それぞれの家と子どもたちを持ったときに、またもどってきたいと望んでいるのだよ……。』『サンタクロースからの手紙』評論社 J.R.R.トールキン著, 瀬田 貞二訳
表紙の絵はトールキン直筆の水彩画です。『ロード・オブ・ザ・リング』でトールキンの世界に興味をもたれた方、また素敵なクリスマス絵本を探していらっしゃる方などもしいらっしゃいましたら、是非、一度ごらんになっていただきたいと思う一冊として、ご紹介させていただきました。